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2007/11/04

地域経営時代の自治体の政策

地域経営時代の自治体の政策

 地域経営―ローカル・マネジメントの時代においては、自治体はただ自治体にかかる関係者の要望への対応や議会対策などを考えていくだけでは、十分な機能を果たしていくことができない。地域経営という観点から自治体の政策形成を行っていかなければならない。これからは地域経営時代に対応して、「ステークホルダー対策から地域経営対策へ」、「現場課題解決施策から地域経営政策へ」、「スタンドアロン施策からネットワーク政策へ」、「政策の忠実な実行から地域経営に配慮した政策遂行へ」という観点で自治体の政策を実施していかなければならない。

①ステークホルダー対策から地域経営対策へ
 自治体においては、商工団体、農業団体、市民団体、NPO,自治会など様々なステークホルダーとの関係を重視し、ステークホルダーの要望等に配慮して自治体政策を実施してきた。
 しかし、地域経営が求められる時代においては、ただステークホルダーとの関係を重視した政策という近視眼的な政策を行っているだけでは地域の真の発展は望めない。地域経営の主体のひとつとして、ネットワーク組織経営体のひとつとして、自治体運営を行っていく必要があり、そのための自治体政策を実施していかなならない。また特に自治体についは、地域経営の中心的なリーダーとしての役割への期待が大変大きいところであり、そのような観点での自治体の政策が必要なのである。ければ

②現場課題解決施策から地域経営政策へ
 自治体の政策形成においては、現場の課題解決が基本となる。たとえば、不況業種が発生するとそれに対して低利融資を行うという対応になる。商店街への来街者数が減少してくると商店街のハード整備に助成しようということになる。このように現場の課題解決という面では十分考えられる政策、施策である。
 しかし、このような課題解決対応は、対処療法的な面がある。とりあえずの対策である。地域全体を考えて、地域経営全体を考えた場合、地域の目標と協働や地域内発的システムという観点からみても、このような自治体政策がいいかどうかを再検討する必要がある。不況業種への対応としては、地域中小企業若手従業員のマネジメント力向上などの人材育成塾、地域企業協働による新製品開発研究支援などの対応が考えられ、商店街についてはNPO、市民などを巻き込んだ街づくりにかかる協働システムを創造し運動していくことなどが考えられる。
 地域経営政策としては、対症療法的な政策ではなく、体質改善型の内発的な地域のシステムやメカニズムを作り上げていくための政策が必要なのである。自治体政策においては、そのような地域の内発性を高める地域のシステムを創造していくという観点での対応が求められるのである。
 また、地域経営におけるビジョン、戦略、戦術に配慮した政策形成が求められると同時に、地域経営の中において機能分担と協働ということに配慮した政策形成が求められるところである。

③スタンドアロン施策からネットワーク政策へ
 中央政府や地方政府たる自治体が優越的であったときは、スタンドアロンのかたちで補助金を交付したり、行政指導をしたり、公共事業を実施したりしていれば、それで社会的責任と公共政策の主体としての機能を十分に果たすことができた。しかし、大きな政府という方向の行き詰まりから小さな政府へという方向に戦略転換がみられ、政府-ガバメントが行ってきたことをガバナンスととらえなおし、その機能をどのような形で実施していくかという面での見直しが進められてきている。小さな政府への指向と市民の自己実現欲求からガバナンスにおける地域コミュニティ、NPO、企業などとの協働が生まれてきたのである。
 このような公共的課題解決のためのガバナンス、さらには地域全体の経営というローカル・マネジメントにおいては、地域内の各主体との連携が非常に重要である。ネットワークを念頭に置いた政策ということを発想していくことを考えていきたい。地域内の連関および協働の支援になる施策の実施や施策の形成である。ネットワークの場づくりやネットワーク形成支援のための自治体政策が求められる。

④政策の忠実な実行から地域経営に配慮した政策遂行へ
 自治体職員の責務は政策の忠実な実行である。法律、施行令、施行規則、関連通達、行政実例、質疑応答集などを十分に理解し、聞かれたらそれに即座に答えるくらい習得し、それに基づいて実行していくことが優秀な自治体職員のモデルであった。これは今までに機関委任事務制度によって培われてきた風土であり、自治体職員のDNAである。
しかし、いまは機関委任事務が廃止され、国の事務がなくなり、すべての事務が自治体の事務となり、また国の通達、通知はすべて「技術的な助言」に変更になった。このような観点からいくと、自治体の多くのウエートを占める国等から受け入れている施策、事業については、各自治体で法令等に違反しない範囲で施策、事業の遂行をしていくこととなる。その場合、地域のことを考え、地域経営の全体のことを考えて、政策を遂行することが地域政策の第一線にある自治体の政策遂行に求められている。


海野 進「地域経営における自治体の政策形成」(『知研フォーラム』298号、特定非営利活動法人知的生産の術研究会、2007年10月)

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