地域経営における教育

　教育とは、「社会における成員としてふさわしい存在へと育て上げることである」（西研）。このため、教育においては、学力（社会の一員として必要な基礎知識、技能と知識・技能と活用する力）、社会力（社会や集団を営む能力、ルール感覚、他者との関係能力）、自己主体力（自分なりの価値観を育て、自ら表現できる力）を育成していくことが必要である。（苅谷剛彦・西研[2005]『考えあう技術』ちくま新書　p.11-30）
　基礎的な知識がインターネットですぐに取得できる一方で、先の見えない社会に向かって進むべき時代にあっては、物事の本質を自ら考えて、課題を解決し、世界の人々とコミュニケーションをとりながら、自己の考えを訴えていくことが求められる。このため、これからの学校教育においては、単に学力ではなく、自己主体力や社会力を育てていくことに力を入れ、その成果が十分上がっているのかどうかを検証していくということに転換していくことが必要である。
　このような学力の基礎の上に社会力、自己主体力を持った人を育て上げていくことがこれからの地域にとっても、大変大切なことなのである。

　地域においては、学校、企業など様々な組織が地域経営主体（地域経営主体）として活動をしている。地域経営は、各地域経営主体による地域の目標実現に向けた運動である。地域においては、地域経営主体（地域形成主体）が、地域生活者の満足の向上を図るという、地域の経営目標に向けて、地域経営主体の固有経営活動と地域経営活動が行われる。これらの活動が総合された結果が地域経営なのである。（海野進[2005]「地域を「経営」する ーローカル・マネジメントー」日本構想学会『構想』volume 4）
　地域経営における課題としては、各地域経営主体がタテの関係においては関係性が強いが、各地域経営主体間相互の関係つまりはヨコの関係が弱いということである。市町村と都道府県、国との関係においては、省庁別の縦割りの関係が強い。企業においては本社や親会社との関係で地域企業の経営が左右されることとなる。このようなタテの関係ではなく、地域におけるヨコの関係による相互の作用が地域の内発力に繋がるのである。地域連関である。お互いの組織が互いに連なり続いているような関係として、関係性を持ちそれが相互に作用しあい、発展性のあるシステムとなっていくような、地域における各地域経営主体間の連関性を高めていくことが必要である。（海野進［2004］『これからの地域経営』　同友館　p.170-p.171）

　地域経営と教育の関係を考えてみよう。
　地域経営においては、地域の内発的な発展に向けた基盤づくりが大切であり、地域経営主体の地域との関係性と地域としての自立性がポイントである。
　地域においては、地域経済、地域の歴史、文化や風土を基礎に、企業活動、町内会活動、学校における教育活動など様々な活動が営まれている。
　地域における教育は、子どもとして慈しみ育てられる生活が営まれる家庭を背景・基盤として、家庭における教育を基礎に、学校において主体的に行われる。先にみたように、学校における教育は、知・徳・体のバランスの取れた人材の育成を目指すというよりは、これからの時代においては、社会の成員としてふさわしい存在へと育て上げるということを目指すべきである。しかし、その点では十分に機能しているとは言い難い。
　地域の自立的発展を目指す地域経営においては、学校において、教育を通じて、地域の活動を担う人材の育成、地域の自立性が大切であるということを基本に、主体的に課題を解決する力を育てるということなど、地域経営の基盤づくりをしていくことが求められる。このような点で、学校教育が十分機能を果たしているか、成果を挙げているかを検証していくことが必要である。
　また、地域の学校が、地域経営主体として、地域のために自立的に活動していく内発的な力を育成していくために、地域において、地域内の企業や団体などとの連関性を向上させていくことが大事である。
　地域おける教育や教育機関たる学校が、地域の自立的、内発的な発展を目指す地域経営において、その機能を十分発揮するためには、教育の意義と役割や地域内の他の地域経営主体との関係を、地域の自立的、内発的発展を目指す観点から問い直していくことが必要である。地域おける教育や学校が、地域の自立的な発展に向けて、革新をすすめていくことが求められている。

海野進［2008］「地域経営における教育」特定非営利活動法人知的生産の術研究会『知研フォーラム』301号
より